チキン事件

 先日電車に乗り込んだ時のことですが、そこそこ車内が混雑していて立っている人がちらほらいたにも関わらずある人の両隣だけぽっかりと席が空いていました。グローバルスタンダードな考え方からすると、この席は明らかにオオクワガタ捕獲のために木にメロンの汁を塗って一晩待とう的な発想で仕掛けられたトラップであり、酔っ払いや汚ギャルならまだしも、「汎用人型決戦兵器YAKUZA-GELION」がカタパルトデッキにセッティングされていた場合、ちょっと肘が当たっただけで敵対的M&A(恐喝)により当社の株(サイフ)がすべて吸収・合併されてしまう恐れがあるため慎重に見極めなければなりません。しかし私は座って眠りたい一心でその確認を怠ってしまいました。


 そのとき双子タイプのボスキャラ「スイとマー」(睡魔)による開幕メテオで壊滅状態に陥っていた私は、席に座ってからほんの数秒のうちに意識が朦朧となり、アイテム欄を開くたびにもったいなくて使えないラストエリクサーの数を確認しては悦に浸りつつ現実世界ではヨダレを垂らしそうになっていたまさにそのとき、不意に異臭が鼻をかすめました。「この匂いは…マザー牧場…?」。その匂いが明らかに人の造りしものではなかったので本気でびっくりして目を見開いてあたりを見回してみると、隣に座っていたおばさんがなんとケンタッキーフライドチキンをたしなんでおられるではありませんか。もし隣に座ったのが僕じゃなくてカーネルサンダースだったらあの堅そうな杖でドメスティックバイオレンスされてるよ。「あの人がチキンです!満員電車で私にチキンしたんです!」なんて言われて『それでも僕は食ってない』っていう冤罪映画が一本作れそう。とかなんとか今書いてみたら超つまんないことを考えながらふと下を見たら僕のズボンにおばさんのチキン汁がついてました。チキンされた…。