ディープインパクト凱旋門賞挑戦

 私は数あるレーシングスポーツの中でも競馬が最も面白いものの一つだと思っている。血と遺伝子の紡ぐ音速の旋律、グリーンカクテルに落とされた衝撃という名の一粒の水滴、聞いてください。北島三郎で『出っ歯 in 白桃(ディープインパクト)』。


 いよいよディープインパクトの出走する凱旋門賞が今週の日曜日に迫ってきた。JRAが番宣を打ったりNHKが生放送を組んだりと、競馬ファンのみならず世間一般をも巻き込む加熱ぶり。武豊騎手も言っていたが「スポーツとしての競馬」がここまでクローズアップされたのはおそらく初めてで、それだけでディープインパクトの偉大さと功績には舌を巻くほかない。私もナリタブライアン菊花賞に度肝を抜かれて以来、馬券は一切買わないタイプの方法で競馬をみてきたが、「競馬ってギャンブルでしょ?馬券も買わないで何が面白いの」という嘲りを何度も何度も執拗に受けてきた。大袈裟に書いてしまった。実は1度しか受けてない。また、高校時代に分厚い血統辞典を買ってきて細部まで暗記しているところを親に本気で心配されるという痛ましい事件まで起こっている。もし自分の息子がそんなことをしていたらおそらく私も本気で心配する。


以下に凱旋門賞の予想を書いていますが、ナガい・クドい・クサいの三拍子が題名のない音楽会を開催してしまったので収納します。




 あれだけクギを刺しておいたのに開きましたね…ドド…ザーボンさん…?。それでまぁ凱旋門賞なんですけど、ディープインパクトは勝てるのか?と言われたらちょっと危ない気がします。あれだけの強さと準備を兼ね備えたエルコンドルパサーが負けたレースを(勝ったモンジューも化け物でしたが)、ただの一度もヨーロッパ以外の馬が優勝したことのないレースを、ほんの一ヶ月前に現地入りしてステップレースすら使っていない馬がそんな簡単に勝てるなんて考えは大甘もいいところ…ッ!身を滅ぼすユートピア思想…ッ!脚に絡みつく重い馬場…ッ!手持ちの作戦が無駄の多い大外まくりただ一本…ッ!去年の凱旋門賞馬にして芝の現役世界王者ハリケーンラン…ッ!去年のブリーダーズカップターフ馬にして今年負けなし破竹の4連勝シロッコ…ッ!(Zガンダム?!)6戦4勝ロンシャン競馬場では無敗を誇る3歳馬レールリンク…ッ!近年稀に見る層の厚さ…ッ!全部で9頭ぐらいしかいないけど…ッ!


 こんなことを書くとディープファンからカミソリが仕込まれた無数のニンジンを脅迫状とセットで送りつけられてしまいそうですが、僕は敢えてディープインパクトの不安要素を挙げることで、実際に勝ったときの喜びを増幅させてしんぜようという大志を抱いた幕末の志士的な行動を取ったまでです。もちろん僕も勝って欲しいんですけど、オーナーや陣営も含め本気で勝ちに行ってる様子がいまいち伝わってこない。本気で勝ちに行くなら宝塚記念なんか使わずに長期遠征でフランスに乗り込んでステップレースを使っているのでは…。当然海外遠征にもリスクはあるし、日本で出来る限り調整するのがベストという陣営の判断が正しいのかもしれないが、やはり「戦績にこれ以上傷をつけたくない」「ディープインパクトの底が割れるのが怖い」という危機感があったのではないか。もし今回の凱旋門で負けても「やっぱステップレースなしのぶっつけ本番はきついね」という意見が第一に挙がるだけで、ディープインパクト自体の能力が根底から疑われるようなことはないだろうと思う。仮にもし勝てばディープインパクト種牡馬価値は100億にものぼると言われており、勝ったらうめぇ、でも負けたときの言い訳もほしいっていう集大成が今回の遠征ではないだろうか。タンマ!さすがにこれは言い過ぎました〜!(舌の上でブドウをコロコロさせながら)


 でもディープインパクトに関してはもはや競走馬としての成績よりも「種牡馬としての価値をどれだけ伸ばせるか、また落とさないようにするか」に終始しているのは確実だと思われます。近年、規模が大きくなる一方の種牡馬マネーゲームにより生み出されたヨーロッパ馬の引退時期が早まる傾向(悪い言い方すると勝ち逃げ)により3歳馬と古馬との世代を超えた対決が極端に減り、スポーツとしての競馬がどんどんつまらなくなっている現象が日本にも飛び火しつつある。個人的にはディープインパクト凱旋門で負けるよりも、現2冠馬のメイショウサムソンや唯一負けたハーツクライ有馬記念で戦わない事態のほうがよほどガッカリする。日本の場合は「タイムを速くすれば競馬盛り上がるんじゃね?」っていう意味のわからないJRAの政策により作られた馬の脚に負担のかかる高速馬場のせいで、次々と将来有望な快速馬が故障してしまうという要素も色濃い。いくら「で、出た〜!2000m日本レコード!(G3ですらないレースで)」とか言われても、その馬なんかでは競馬ファンの思い出を駆けるサイレンススズカの影すら踏めない。


 ディープインパクトの不安要素をこれだけ煽っておいてなんですが、「それでもディープなら……ディープならきっと何とかしてくれる…!」と期待を抱かせるところがやはりこの馬の底知れないところで、今まではただ相手が弱かっただけという人もいるけどあの菊花賞のレースぶりなんかはちょっと本当にこいつ馬なの?とDNA鑑定を依頼したくなるパフォーマンスだと思いつつも、「あ〜!後ろから鋭く伸びるもクビ差届かない〜!」っていう2着止まりのイメージもあるしで、つまり実際どうなるかさっぱりわかりません。とりあえず99年の凱旋門賞でゴール直前に日本のエルコンドルパサーを半馬身差かわして優勝したモンジューの息子が今年出走するハリケーンランなので、このどら息子をゴール直前でディープインパクトが半馬身差で差し切ったりしたらかっこいいなぁと思いました(ダビスタ脳)。その年のジャパンカップ凱旋門賞馬の肩書きを引っさげて来襲したモンジューをいとも簡単にちぎったスペシャルウィークのなんと格好の良かったことよ…(モンジュー4着だけど)。そういやスペシャルウィークエルコンドルパサーって一回しか戦ってねーじゃん。さようなら。