知らないおっさん

 私がいつものように、魚肉ソーセージが素手でうまく開けられないことを両親にカミングアウトすべきかどうか悩みながら鎌倉幕府のことを考えていると、いきなり後ろから「わたくし、風呂上がりに全裸で土俵入りの練習をすることだけはここ25年欠かしたことがございません」みたいな顔したおっさんに声をかけられました。「この辺にそば屋ねぇか?」。私はこの土地に降り立ってまだ5分も経っていない。もしも知らない土地で看板も地図も見ずにそば屋の位置を当てられるなら、私はとっくにFBI超能力捜査官としてTBSで特番を組まれている。百歩譲ったとして、もしも私が右手に丸いレーダーを持ち、右肩に黒猫を乗せ、ブルマという名前の娘がいたとしよう。それならいいよ全然。聞いてくれたらすぐにレーダーでそば屋を7軒集めて海原シェンロン雄山に至高のそばを打ってもらうし、時間さえ許せばそば屋をまるごと一軒ホイホイカプセルに詰め込んでプレゼントします。だが実際の私はどうだろうか。高校生になるまで「ごきげんよう」が生放送だと信じていた昭和生まれのフランシスコザビエルだ。おっさん、俺がボクシング経験者じゃなくてあんた命拾いしたな。万が一俺がボクシングをやっていたら、ディズニーシーで遊んでるあいだに勝手に国籍をタイにされ、亀田大毅デビュー戦用かませ犬として23秒でKOされる運命だったわけ。「あ、知らないっす^^」